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日出処の天子④

2011.05.08
 一昔前には一万円札の絵にもなった聖徳太子…ですが奈良時代の人間で冠位十二階や十七条憲法を制定し小野妹子を隋に派遣したという「教科書上の事」以外、父親が天皇(用明天皇)で自分も天皇になる資格があったのに非常に優れた方でありながら何故1度も天皇にはならなかったのか、有名な「日出処の天子…」で始まる書に関して中国側の記録では「王タシリヒコ(男王の名称)使いを遣わして朝貢す」となっているのに対して当時の天皇は女帝・推古天皇だったはず…等々、有名な割には謎の多い人物です。話では彼が超能力者という新解釈を持って毒々しい魅力を放ちながら物語が進んでいます。

 河上娘…雄麻呂「見ろよ、河上娘の奴。以前は俺やお前に媚を売っていた低俗な娘が大王の妻になったとたん有頂天だぜ。」
泊瀬部大王「蘇我と天下を二分した名門・物部氏の血をも汲んだ高貴な美人が妻になると思ったのに…詐欺だ!」

考えてもみれば蘇我馬子の正室の娘であり跡取り(毛人)の同母妹である刀自古娘の方が妾腹の娘である河上娘よりも「身分」は上(母方の出自を比べても「天下を2分した」物部氏に比べれば「有力」止まりの豪族である河上氏はやはり格下とは言える。)で同じ一族の娘とはいえ身分が低い妹の方を差し出すのは大王に対して確かに失礼(花嫁を差し替える何かの事情があってもおかしくは無い)と展開に納得もできたものでした。大王も侮辱を感じてか2人の間に子は出来ず夫婦仲は極めて悪かったらしく、その後大王は物部布都姫と、河上娘は駒とそれぞれ新しい相手を見つけてよろしくやる事になります。次期大后候補という女達の垂涎の的の立場であり「降ってわいた幸運」であってもそれで幸福になれるかどうかは分からないんだなと後に悲劇的な最期を迎える彼女の運命(大后候補の立場も、大王の夫も、愛人の駒も全て失ってしまう。)も思って性格の悪さとは別に同情もした女性でした…。

 刀自古娘…毛人「もしやお前に好きな男でもいてそれで大王への入内を嫌がっていたのかと思ったが取り越し苦労でホッとしたよ。私も苦しい恋には胸に覚えがあるからどんなに辛いかと…。」
刀自古「…。」

実の兄(毛人)を恋い慕う刀自古娘にとって、この毛人の言葉は全部当たっている挙句に他の女への恋情まで語られて色々な意味で思わず死にたい気分になったのでしょうね。(で、入水自殺を図ったと…。)この巻にて実は彼女は戦の間に何人もの男に狼藉を働かれ中絶したという壮絶な過去が明らかになり別の男に恋している云々の子供のたわごと以前に他の男の手垢がついた娘を大王に嫁がせる訳にはいかないという入内取り消しの事情に説得力を感じたものでした。過去のせいで性格に影が差したとはいえ嫉妬深い(毛人は「地獄耳」と解釈してくれていますが…。)のは元々の性格ですし兄や母の気持ちも考えずに自殺しようとするのも考えてみれば身勝手(そんなに嫌なら泣いて頼めば良い物を表面つらは良い子ちゃんぶって「実は私はこんなに追い詰められていたんです」(それは全部追い詰めたアンタ達に原因があるのよ)と結果的には責任放棄する辺りが…。どうせ責任放棄するのなら人を悲しませない方法で実行なさいよと言いたいです。)ですし同情部分とは別に性格はあまりよろしくない女性だなと感じてしまったものでした…。

 物部布都姫…親類「いくつも年下の男にそのような切なげな声を上げるとは、気持ちの上で姦淫したも同じこと!今の一言でそなたは斎宮としての資格を自分から捨てたのじゃ!」

自殺未遂にまで追い込まれた刀自古といい、恋心がバレて神を盾に結婚を断る事ができなくなった布都姫といい、布都姫を還俗させる為にも雨乞いをする羽目になった厩戸皇子といい毛人には彼に惚れている人間を窮地に陥らせる特技がある様子です…ゲフッ!厩戸皇子からの精神攻撃に、泊瀬部大王からの色目(から来る悪感)に、毛人への恋情に雨乞いにも全然集中できない彼女。神が見つけられない以前にこの状況下では本領が発揮できないだろうと多少同情もしてしまったものです。泊瀬部大王と蘇我毛人の2人もの男に思われるも大王の妻になっても嫌いな男の性奴隷、毛人の妻になっても日陰者の妾がせいぜいという彼女の立場には(両手に花状態ではあるのにどっちに転んでもロクな扱いにはならないだろうという現実を含めて)悲哀も感じてしまいました。3巻での「最悪の初対面」以来(贈り物はしていたけれども)1度もマトモに会った事が無いのにここまで燃え上がれるのも凄い話ですが悲恋に終わりそうな展開には今後が気になる所です…。

 泊瀬部大王…「これほどの美女が神に身を奉じて埋もれるなどもってのほかだ。わしの目に止まったは天の配剤よ。」

世は飢饉に疫病にと乱れに乱れているこの時に新しい妾探しに夢中になっている場合でもあるまいに状況を全然分かっていないダメ大王でした。(「放っておけばいつまでも何もせず策を立てると出過ぎたことをと腹を立てる。このように暗愚な大王を持ってこれからどうなるというのだ。」と馬子に引導も渡されてしまう訳です。)彼×布都姫の縁談は元々は厩戸が火をつけた話とはいえ高貴な美人と聞くと立場も自制も忘れてしまう彼の性格に根差した問題でもあったな(厩戸は高貴な美女の居場所を突き止めやすくしただけで元々泊瀬部大王は新しい女を探していた。)とツッコミも入れざるを得ず、布都姫の不幸は別に厩戸のせいではないのではないか(厩戸が自分より身分が下の毛人の恋の為に労力を割いてあげる必要など始めから無い。)とも感じたものです。ともあれトップとしてダメダメな男であることは確かで早々に引きずり降ろされるこれからの展開にも納得できたものでした…ゲフッ!

 厩戸皇子…「それで手を貸したのか。」

泣きながら喜んでしまった自分の愚かさを笑っている彼の姿が目に痛かったです。自分の為に力を貸してくれた(ほとんどダメだと思っていたのに彼は心変わりして自分の方を選んでくれたのか。)と思いきや、何の事は無い、彼は始めから布都姫のことしか頭に無く彼女と結ばれたいが為に皇子の権力に縋っただけだった、という悲しいオチには、よりにもよって恋敵にそんな事を頼むなんて無神経にも程がありますよ、毛人さん!最終巻に至るまで皇子の気持ちに気づけない鈍~い毛人にツッコミを入れてしまったものでした。(もっと早くに気づこうよ、それ…。)おかげで、2人のキューピットを果たしてくれなかった意地悪な皇子(「やらぬ。そなたに布都姫はやらぬ!」by皇子)として、またしても毛人との間に溝が出来てしまった様には涙するしかありませんでした…。
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日出処の天子③

2011.05.07
 この話を始めるに当たって物凄い影響力を受けた「隠された十字架」の作者・梅原猛先生との対談が載っている巻です。聖徳太子があまりにも「伝説化された偉い人」だと読者がついてこれないから人間的な欠点や傷を負った存在(美少年で超能力者で同性愛者)にした事や、歴史家にとっては盲点になっている蘇我毛人(入鹿や蝦夷はよく取り上げられるが毛人はちょうどその中間に隠れてあまり出てこない。)に焦点を当てた点、何人も「太子の子供を産んだ事実」だけは通さねばと男から男へ転々として生まれた子供達を太子の席に入れさせる女にされた刀自古郎女(酷い結末だな。)、などなど色々な登場人物の出生譚が拝めて個人的には楽しめたものでした。「歴史上の事実は変えられない」中からどれだけ魅力的な人間ドラマが描かれていくか、独断と偏見の元でもどれだけ紙の上の人物に血と肉を吹き込めるか、その辺が作者の力量だよなと改めて感じ入る次第です。

 菟道貝蛸皇女(大姫)…「酷い!酷い!お母様はこの私を大后にしては下さりませぬのね!私、大王以外のお方は嫌でございます!」

…と言ってはいたものの見目麗しい厩戸王子の姿に実はすっかり気に入ったのか次に会う時にはしっかりおめかしをしており、ツンデレが昂じての口の悪さ・偉そうな態度は相変わらずなものの王子の出来た受け答え(「なるほど、あなたはお怒りになられた方がよりお美しいのですね。」「…王子の方が役者が一枚上手だわ。」by女官)にあっさり縁談には納得した様子でした。(まだ口先では文句を言っているけれど。)しかし当の王子は自宅での宴を蹴る為(母親への当てつけの為)だけに伯母の宴に出席しただけ(母ではなく伯母の「息子」として役者のように出来た演技を見せていただけ)で大姫の事は全くどうでも良かった(むしろ女は大嫌い)のですが…世の中、知らない方が幸せという事実は往々にしてあるので口先はどうあれ本気で恋してしまった大姫の為にも余計な事は語らずにおく事に致しましょう…ゲフッ!

 蘇我毛人…「あのように心騒ぐ女性に初めて会ったと思ったら、またも厩戸王子だったとは…(ホモにならない為には)どうしたらいいのだ。」

と、じいに頼んで阿部の女と関係を持つに到った彼。しかし肉体関係だけ持っても相手に恋ができる訳でもないし心は全然騒がない(「女の為の装飾品や衣装を持ち帰る段取りすら思い浮かばないなんて、そりゃお前、惚れてないからだよ。」by雄麻呂)という様に多少拍子抜けしているようです。(対して厩戸王子の方は女連れで仲良く遠乗りしている彼の姿に思わず地震を起こしてしまうほどショックを受け、他の女ととうとう一線を超えた事実に泣くほど心が騒ぎまくっている訳ですが…ゲフッ!)結局どうでもいい女よりも家族よりも「あなたに捨てられる位なら私は死にます。」と言わんばかりに冬の湖に飛び込んだ厩戸王子のほうが断然心配になってしまう毛人。冬の寒空に着ていた服まで差し出して馬に乗って一生懸命自分を救おうとする下半身の方はどうあれ心はまだ厩戸王子の元にある毛人の姿に厩戸王子も妥協するに到ったご様子です。毛人が美人の布都姫に出会い厩戸王子の縁談にさえ何も感じなくなってしまうほど熱烈な恋に落ちてしまう(とうとう「女」に心まで奪われてしまう)のはこれからの話ではあるのですが…ゴフッ!ごく近い未来に待ち受けている修羅場にはツッコミを入れずに今はただ仲の良い2人の姿を読んでいく事に致しましょう…ガフッ!

 善信尼(嶋)…嶋「……。」
調子麻呂「……。」
毛人(な、なんて長い沈黙だ…。2人の溢れる想いが伝わってくるのが分かるが、何とか言え!じれったい!)

当時まだ安全を保障されていない船旅でもしかしたらこれが永遠の別れになってしまう(かもしれない)その時にする事は愛の告白でしょうに(その為に仕事まで休みを貰ったんじゃないのか?)今更になって自己紹介で終わっている様にはどんだけピュアな2人なんだ!?(「じれったいほど清い関係なんだから…。」by毛人)と思わず含み笑いが出てしまったものです。ちなみに善心尼が出立する時に彼女に惚れた男が見送りに来たとも帰国時にも会いに来たとも史実(日本書紀)上では何も書かれておらずこれは厩戸王子の一番の味方である舎人の彼すら他の女に恋する普通の人間で異端な王子の本当の理解者にはなりえないという伏線も含んだ捏造エピソードだったのだろうなあと思うと切ないです…。

 物部布都姫(石上斎宮)…布都姫「蘇我の馬を借りる位ならば舌を噛み切った方がましじゃ!」
毛人「私だとて半分物部の血が流れているのだが…親兄弟、一族郎党全てを滅ぼされた者にしてみれば、あれほど罵るのも当然のことだろうな。」

2人共、物部氏の血を汲む者(後に泊瀬部大王の妃として入内する布都姫は毛人の母親の異母妹)として関連があること根底にを面白く料理したこの新しい一目惚れエピソード。(それにつけても毛人は面食いなのだなあ…。)「せっかく親切に馬を貸そうとしたのにあんまりだ!」と出会って早々に消滅しかけた恋愛フラグも彼女が狼藉者の魔手に掛かろうとしたその時に王子様のように駆けつけて救った事もあり(現実の王子様(男)達が女を置いて逃げる事が多いこの世の中「そのお方に乱暴を働くと承知せぬぞ!」と登場したのはかなりポイントが高いだろう。古典的だが。)長~い間斎宮で過ごして男への免疫なんてゼロだった布都姫はその後しげしげと届けられた贈り物のおかげもあってあっさり陥落してしまった様子でした。(最悪の初対面がすっかりときめきメモリアルに…ゲフッ!)とはいえ真面目な彼が女への贈り物を届けまくっている(既に「お世話」になった阿部の女にさえ放置プレイをしているあの毛人様が!)様に毛人の新しい恋は秘めているつもりが周り中にバレバレで速やかに厩戸皇子(よりによった人物)にまで伝わってしまい、邪神の使い(嫉妬の権化?)と化した王子が早速2人を引き裂くよう手を打ち始められたおかげで、毛人の恋が実るのはまだまだ先の話になりそうです…ゴフッ!

 余談…男×男の同性愛に対して、少女達は作品に自己投影をしており出てくる素敵な男性と結ばれたいのは「理想的な女性登場人物」ではなくて「本当の自分自身」なので自分の好きなその作中の男性が彼女と結ばれてしまうとある種の嫉妬が出てしまう、だから男同士の方がいっそ楽だと書かれていて(その辺で男性編集者を説き伏せるのに苦心されたそうです…。)なるほど、そういう心理なのかと思わされたものでした。(そんな事言っても現実に自分が話の中に登場できる訳もナシ、当の男登場人物が幸せになるには作中で「別の女」を見つけるしかないと思うのだが…。)浮気の中でも「男が相手なら許す」という女性がいるのはそういう事なのでしょうね…ゲフッ!

日出処の天子②

2011.05.06
 蘇我氏と物部氏の争い、泊瀬部大王弑逆、と話の中の歴史上「戦い」は山とあるのですが、後書きで「歴史をホームドラマにしましたね。」と言われている通り、戦場で大立ち回りをするアクションシーンでなく「食卓があって皆、周りに集まって向かい合って喋ってる図」(まさしくホームドラマ)が多い、なのに緊迫感を感じるという内容の濃いシリーズです。しかし作者に言わせれば「歴史はホームドラマの積み重ね」であり、男達の「進むも地獄、退くも地獄、なれば進みて我死なん。月よ、わが屍を照らせ。」なんて考え方(それが「戦い」だと思っている。)だからこそ食料の事とか全然考えないでガダルカナルで無駄死にしたんだという発言に力強く頷けてしまった、そんな後書き対談の言葉でした…。

 穴穂部王子…宅部「少数派になった神道派より馬子の側に着く方が得策ではないのか?」
穴穂部「守屋を裏切るのか!あの馬子に頭を下げろというのか!?」
宅部「要は大王になるための手段だ。大王になって、それから蘇我とゆっくりやり合うのが順当ではないか。そなただとて、それほど神道に固執している訳でも無し…。」
穴穂部「そんな事をしなくても俺は大王になれる!」

せっかく頭の良い友達の忠告を受けても本人がバカ過ぎて聞き入れないとあってはどうしようもない…という歴史的事例でした。仏教(蘇我派)に寝返って保身を図る案を蹴った挙句に、美女(守屋の娘・豊女)につられて物部側にフラフラ食いついた(またか!)結果、穴穂部王子は史実通りに「蘇我側の刺客に殺された」(この話では厩戸王子本人が出向いたという面白いフィクションが肉付けされている。が、王子様が自ら手を汚すなんて、本人が言っているように「それは夢です。」と断言できる有り得ない展開でもある。)様には彼らしいマヌケさと合わせて思わず失笑してしまったものでした。(「穴穂部…だから廃仏派の守屋と組むのは辞めろと、あれほど止めたのに。玉座を目の前にして、お前の前途は洋々たるものだったのに。」by宅部王子)しかし、そんなバカな男にも家族(姉・穴穂部間人媛)がいて、友人(宅部王子)がいた訳で「邪魔者が1人消えた」だけで事態は収まらずに修羅場になっていきます…。

 泊瀬部王子…厩戸「年齢から言っても妥当ではありませんか。彼は崇仏派でも廃仏派でもありませんよ。何か問題がありますか?」
馬子「いや、別に…ただ、考えてもおりませなんだので…。」
厩戸「誰もが考えてもみなかった人物…それが肝心。毒にも薬にもならぬ…そうではないか?」

要するに「無能」だから御輿の上に乗せておくには最適な人物だろうやり手で自分で政治を始めちゃう大王より、身の程を知っているバカ王の方が大臣達の好きに政治が出来る。)という事で誕生した泊瀬部大王(別名・宗峻天皇)ですが、問題は御輿の上に乗っけたとたんに増長して、俺様ワガママし放題な大迷惑大王になっちゃった展開でした。無能な小者らしく、一生縮こまって身の程をわきまえていれば良かったものの、大王にして貰えた恩も忘れて威張り散らすようになってしまった。「人の影に隠れて与しやすい小心者」だから大臣達も彼を推しただけで、大王の立場になったとたんに「自分なら何をやっても許されるんだから!」と後足で砂をかけるような真似をし始めた彼に馬子も白い目を向け始めた(「これはマズイ…このお方は派手好きの見栄っ張りときた。しゃしゃり出てこない小者だと読んでいたのだが…。」by馬子)様には後の展開が透けて見えたものでした…。

 物部守屋…「ここで退けば後が無い。この湿地帯を出れば我々に勝ち目は無いのだ。わしはあの木に登るぞ。あそこからなら蘇我の動きが丸見えだわ。」

地の利(泥土)を活用し、さらに全景を見る事で効率良く正確な攻撃が仕掛けられるようになった訳ですが、裏を返せば指揮する人間(総大将)が全体を見渡せる場所(木の上)から指示をしている事は良く考えればバレバレ(そして携帯の無いこの時代、必ずその木の真下で指示を聞く人間がいる。)で、冷静に状況を見れば彼がどこにいるのかは予測がついた事でしょうね。(「まさかわしがここにいようとは誰も思うまいて。」「そうかな?」by厩戸王子)おかげで史実でもこの話でも舎人の淡水(とみのいちい)に射殺されるという結末を迎えてしまった彼。大将を亡くした動揺で物部側は総崩れとなり、息子の梯麻呂は討ち死に、弟の贄子は囚われの身となり、ここに廃仏派・物部氏は大和朝廷から姿を消したのでした…。(それで栄えた勝者の蘇我氏が孫の入鹿の代には大化の改新で滅ぶのだから、本当に歴史とはオセロである。)

 竹田王子…額田部女王「私の竹田を返してくりゃれ!申し訳ないで済むものか!私の竹田は戻らぬ!」
厩戸「竹田王子は仏になられるのです。このまま静かに見送ってやりましょう。」

戦に出してしまったおかげで、当の王子達は「箔付け」の為の参戦で「まさか朝廷を敵に回してまで『王子』である自分達を攻撃したりはしないだろう。」とやる気ゼロの有り様(自分で戦う気なんか始めからありゃしない。)だったというのに、額田部女王(後の推古天皇)の息子という、よりにもよった人物が死んでしまったのでした。「蘇我氏側の王子なんて全滅してしまえ!」と、次期大王候補の穴穂部王子を失い、家臣・中臣勝海を殺され、唯一・錦の御旗になりそうな彦人王子にも見限られたトリプルパンチで自棄も起こしていた守屋達(オマケに守屋達は八十物部氏と謳われるほど同姓氏族が多い一族な上に、歴代の軍事力を誇る軍事のベテランであった。)は、もう勝手も外聞も構っていられなかった結果です。(そして数でこそ3倍近く勝っていた蘇我氏側は政務担当で軍事に関しては素人だった。)戦場に命の保証なんてどこにもありはしないという常識論でした…。

日出処の天子①

2011.05.05
 「今はっきりと見えている恐るべきライバル」「馬子を潰すせっかくのチャンス」などなど当時の人間が絶対に使わない外来語は出てきてしまっているものの恋愛沙汰だけでなく個々の利益の為に動く、腹に一物ある一癖も二癖もある登場人物(そして綺麗事を言う裏で腹の探り合いをする)や魑魅魍魎が跋扈する霊的な世界観、そして何より主人公・厩戸王子を中心とした作品を通しての毒々しい魅力にそんな細かい事は全然気にならなかったものでした。(要するに池田理代子先生の「聖徳太子」がつまらなかったのは恋愛描写ばかりで政治的駆け引きも無くフラストレーションも無い単純な人間しか描かれていないからだと認識できました。)という訳で「聖徳太子」ではなく内面的な妄執に苦しむ「祟り神」とも言える「厩戸皇子」の物語です。

 穴穂部王子…穴穂部「小僧っ子のお前に年上の色香が分かるか!」
泊瀬部「だからと言って、相手は大后だろう!」

額田部大后に対して「魔が差した」のは厩戸王子の超能力(透視能力)が働きかけたのがきっかけだったとはいえ問題の根源は一瞬裸の姿が見えただけで速攻で理性を忘れてしまう彼の軽率さにこそあったように思います…ゲフッ!(母親は笑う厩戸を不気味がっていましたが、これは間違いなく笑うシーンだろうとツッコミを入れてしまいました…ゴフッ!)「腹に一物持つのは好かない」とはいえあまりにも考え無し・勢い任せの行き当たりばったりの行動の数々(「彼の長所も短所もこの軽率さの中にある」とはいえ…。)にはやはり大王にふさわしい人物とは思えず彼がトップ(大王の位)に立たなかったのは正解だったと改めて感じたものでした。(池田先生も山岸先生も彼の性格に対する描写は同じなのね…。)という訳で次の大王は豊日大兄王子(用明天皇。聖徳太子の父。)に決定し話は続いて行きます。

 三輪君逆…額田部女王「確かにこれには忠義を尽くして貰った。だが彼の思惑が彦人王子にある限り将来必ず私の子、竹田王子の大王への道への大きな壁になる。今は心を鬼にしてこの者を…。」

三輪君を破滅の道(彼を殺したがっている穴穂部王子ご一行とはち合わせの文字通り滅亡の道)に導いたのは女孺に扮した厩戸王子ではありましたが王子は破滅への最後のダメ押しを手伝っただけで元々、人々の思惑はそこにあった事を思うとむしろ彼よりも周りにいる人間の方が余程怖い(厩戸は「先を読んだ」だけ。彼が手伝う事が無くとも遠からず同じ結末を迎えるしかなかった。)とも感じてしまったものでした。忠義を尽くし貰っても都合が悪くなるとサッサと手の平を反す、人間とはそういう物であり、お涙頂戴の感動ドラマ(池田理代子先生版)に仕立て上がっていない分リアリティを感じた最期でした…。

 穴穂部間人媛…厩戸王子「私以外で苦界奥底の魑魅魍魎の流れを見たのはそなたと母上だけだ。最も母上は気配を感じただけだが、それで母上は私を恐ろしく感じているのだ。」

どうやら厩戸王子の才能(霊能力・超能力)は母親から受け継いでより強く開花したものらしいですが本来「同じ世界」を感じる事ができて一番の理解者になるはずの母親自分よりもなお強力に異質に生まれついてしまった息子を全否定する方向に走ってしまい日常生活はもちろん人前でも厩戸を「いないもの」として扱うようになってしまったようでした。それもあって「同じ世界」をよりハッキリと感じながら自分に対して恐怖を抱かない(良い意味で育ちの良い)毛人は厩戸にとっても意外な存在であると同時に「この人なら信じても良いのではないか」という淡い期待も抱いてしまったのでしょうね…。そのまま上手く関係を築いて行けたら良かったんですけどね…。

 用明天皇…厩戸王子「父上、あなたが今ここで死ねば私の手はこれから先、血に染まるのです。貴方はご自分の息子にそのような事をさせたいとお思いですか。そうお思いでなければ力を振り絞って下さい。」

人前でも憚らず弟(普通の子供)の来目王子をえこひいきする母親とは違い一応体面上は息子として接してくれていた(家族としての関わりは母親と同じく薄かったが人前では父親としての義務的立場は果たしてくれていた)からこそ、そのわずかばかりの縁に縋って黄泉の国の使者から父親を守り声をかけたのに父親は息子に応える事なく(息子の事など気にせず)黄泉の国に旅立ってしまったのは文字通りの悲劇だったでしょうね。(「そなたは泣かぬのですね。」以前にもう泣けないほど絶望が深かったのかと…。)誰も厩戸の本当の悲しみを理解してくれていない様が哀れで思わず同情してしまったものでした…。

イシス

2010.08.27
 きっとこの短編集は「不思議な話」という焦点に絞ってに集めたんだろうなあ…と神話「イシス」、幻の子供が登場する「雨の日の訪問者」、血を止める超能力少女が出てくる「ハトシェプスト」という話の舞台の統一感の無さ(日本だったりエジプトだったり神話の世界だったり…。)にそういう解釈を当てはめて強引に納得したものでした。目的の為ならば手段を選ばない男らしいハトシェプスト女王も登場し歴史物好きな私としては感無量でもあった短編集でした。

 イシス…「ツタンカーメン」にも収録されており記事で散々語ったので今回は割愛。

 雨の日の訪問者…久仁子「私ってダメねぇ。こんな小さな子にすぐ本気で怒ってしまうから。寛容さが無いんだわ。やっぱり人間、子供を育てないと本当の忍耐力はつかないのかしらね。」

そういう問題じゃねえよ…!と不法侵入の果てに壁に落書きをしているベルちゃん(確実に躾けられてないだろ)及び、それを許している甘~い久仁子さん(将来の義母)にツッコミを入れてしまったものでした。「考えようによっちゃ面白いじゃない。」と幻の子供を受け入れる気持ちになったらタイトル通り晴れてからは現れなくなり(せっかく壁に紙を貼り遊ぶ用意までしてたのに、この子は…。)拍子抜けしたこの話。後に分かる事ですが久仁子さんの結婚相手の姪っ子が当のベルちゃん(鈴子)でありローマに勉強に行きたいから子供の世話なんかしていられない(就職じゃなくて勉強ね、ふーん…。)と兄夫婦に子供を託す(押し付けている)ベルの母親に母娘揃って何だかな…とげんなりしてしまった話でもありました…ゲフッ!

 ハトシェプストⅠ…メヌウ「私はセシェンがずーっと憎かったのだ。男だけではなく女の心をも持って行ってしまう、そして血を止めることも、私が守ってやらねば何も出来ないと思っていたあの子が実は全てを持っている。」

美麗な外見、血を止める超能力は確かに持っているものの、知恵遅れであるのを良い事に男共に良いように体を開いている発情した動物並のセシェンの生き様が人間として本当に幸せなものなのかと問われると色々考えてしまう所は有るのですが…ともあれそんな妹をなんだかんだと言いながらも結局見捨てることはせず死んだ時も涙したメヌウ(セシェンに愛を語る男共も憎しみを語るメヌウ本人も口先では何とでも言える。大切なのは行動であり「力」を利用しながらも食事その他の「対価」をきちんと与え最後まで面倒を見ていた彼女)は、やっぱり良いお姉さんだったように思える私です。(実際の介護が綺麗事だけで済まないように、こういう家族の世話は大変である。)結果、殺されるイメージだけで死んでしまった妹に、恋しい人(ハトシェプスト)の側にいることすらできなくなった展開に「家族も恋も全ての望みを絶たれた」事から予言の力を開眼させたメヌウ(「ああいう力は何かと引き替えなんだそうな。」byミイラ工房の男)ですが、ギリシャ神話のカサンドラ王女よろしく誰もその的中率100%の予言に耳を傾けてくれていない辺りが痛い結末でした…ゲフッ!

 ハトシェプストⅡ…ハトシェプスト「なぜ泣く?兄上が亡くなられたからだ。間違ってもあの女の為ではない。」

紀元前1521年のエジプトを舞台に紡がれるハトシェプストの少女時代(…少年時代?)の話です。ミケネ(クレタ島)の巫女ロドピスはやはりエジプトに差し向けられた刺客だったのか(結果的に王家に害を成せるのなら跡取り息子の殺害でも良いと側室を後押ししただけなのか?)はたまた何人もの男と春(体)をひさがねばならない境遇(男への憎しみ)から自分に迫る男2人をぶち殺したくなっただけなのか(毒を盛られて死んだアメンモーズ王子同様、国王も危うく玉座の下に巣を作ったコブラに殺される所だった。)謎は残るものの、ともあれ父にも母にもマトモに相手をして貰えていなかったハトシェプストにとっては腹黒い女であろうとも「初めて自分を抱いてくれた恋人」である事実には変わりがなく女性との経験(「男になった」という事なんでしょうね…役割的に。)から「男」としても落ち着いた様子です。そして「ハトシェプストⅠ」に続いて行きます。
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